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zoom RSS 【S】サンタさんにお願い2011『クリスマスの涙』

<<   作成日時 : 2011/12/24 20:21   >>

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そのご婦人は、手にした人形に願いました。
「あの人の傍に、行かせて下さい」
と。



都会から随分外れた、かと言って田舎とは言えない程度には栄えた街。
クリスマス・チャイルドと呼ばれる子供が配達をした人形を見つめて。
婦人は、何度目かのため息をそっとつきました。
クリスマスには、クリスマスチャイルドと呼ばれる子供たちが、
サンタの人形を配達すると言う噂があります。
そのサンタ人形は、一度だけ願いを叶えてくれるというのです。

「噂には聞いていたけれど、本当にいるのね。
それともこんな悪戯が流行っているのかしら?」

朝、新聞受けに、新聞と共に入っていた小箱。
宛先も何も書いておらず、綺麗なリボンが掛けられていました。
今日はクリスマス・イヴ。
プレゼントを渡してくれるような相手に心当たりはないのです。
不審に思いながら箱を開くと、
そこには小さなサンタクロースの人形とカードが入っていました。


画像


『願いごと一つだけ かなえてあげましょう。

ただし 願えるのはクリスマスが終わるまで』




願いはたくさんあります。
人とは、そうしたものだから。
お金も欲しいし、住む場所ももっと快適にしたい。
おいしい物も食べたいし、健康でいたい。
願えばきりがありません。
少し前の自分なら、ありすぎる願いに迷ったはずでした。
でも、今の自分には、願うことなど何も無いのです。

もう、何も無い。

辛い一年だったのです。
ずっと共に生きていくはずの相手を不慮の事故で喪い、
住んでいた場所も追われ、この街に移り住みました。
酷い怪我を負い、指先を使う仕事が出来なくなって、
一流と言われた腕は、もう使えなくなってしまいました。
辛うじて生かされている。
何とか、食べ繋いでいる。
このまま同じ日々が続いていくのだろう。
体から生じる痛みや苦しみに耐えながら、残りの命を過ぎゆく日々に任せるしかない。
自分の人生は、彼の命と共に果てたのだと悟りました。
抜け殻が、呼吸をしているだけなのだと。
すでに涙は涸れ果てて、流れることはありません。
だからもう、願うことなど無いのです。

また、ため息が出ました。

箪笥の上に箱を置こうとして、隣の写真立てへ当たってしまい、
ガチャン、と音を立てて、落下した写真立ては割れてしまいました。
木の継ぎ目部分が外れて、中身が外へはみ出しています。
そこには、笑顔で手を振りこちらを向く、大切な人の姿。
怪我をしないよう注意をしながら写真立てを外しました。
彼が居なくなってしまった時、誰かが持ってきてくれた写真立て。
写真立てと写真はセットで、自分の病室に飾られていました。

あれ?
この写真、誰が持ってきてくれた物だったかしら?

思い出せない。
当時の記憶は元々混乱しています。
自身の怪我と、彼を喪った心の状態の悪さで、
途切れていたり記憶が無かったり曖昧な部分が多いのです。
なのに、怖かったあの一瞬だけは鮮明に記憶しています。
消えない。
消したくても消えない。
今でも、夜中に悲鳴を上げて起きることが何度もあるのです。

この、怖い記憶を消してもらおうかしら?

それはだめだと言い聞かせました。
その記憶は怖く、苦しい記憶だけれど、彼の最期の瞬間がある。
忘れるわけにはいかない。
彼が生きて、実在した一番新しくて最後の記憶なのだから。

古いラジオから、クリスマスキャロルが流れてきます。

私たちはクリスマスに式を挙げたのでした。
神父様は、その日の式を少し渋りましたが、結局は引き受けてくれました。
その年のうちに式を挙げたくて、二人の取れる自由な時は、その日しかなかったから。
ミサが終わった後の何も無くなった教会で、
私と彼と神父様の、三人しかいない結婚式。
質素な安物の指輪と、ウエディングドレスに見立てた白いワンピース。
それだけの式。
余り物のクリスマス・キャンドルを吹き消して、こんな幸せな日はないねと、笑い合った至福の日。

思い出は風化するけれど、消えることはない。
形を変え、心の中に残っていく。
彼のことも心の中で美化された部分が多いと思う。
それでいいと思っている。
彼と暮らした日々は短すぎて、残念ながら子供を授かることが出来なかった。
今はたった一人で、過ごしている。

もう、疲れた。
これから先、どうして生きていっていいのかもわからない。
人形を箱から出して、そっと手に取ってみました。


そして婦人は、手にした人形に願いました。
「あの人の傍に、行かせて下さい」
と。


人形は、微笑んだようでした。
寒気がして、まだ暖房を点けていなかったことを思い出し、暖炉へ振り返りました。
そこには、いつの間にか、一人の男性が両手を広げて立っていました。

「神様・・・!」

婦人は、迷わずその腕の中へと飛び込みました。
何度も夢に見た、彼の腕の中へ。
しがみつき、暖かさを確かめ、胸へ顔を埋めます。
彼はそのまま消えませんでした。
何事もなかったかのように、暮らし始めました。
満ち足りた毎日が、平凡に過ぎていきます。

やがて年を取り、病を得て床につき、婦人は最期の時を迎えました。
年を取った彼が、傍らに立っています。

「君と暮らせて幸せだったよ」

優しく微笑んで、そう言いました。
わたしも、あなたと暮らせて幸せでした。
そう言いたかったのに、もう唇が動きません。
残念ながら子供は出来なかったけれど、二人で共に暮らした日々が宝物のように燦めいています。
些細な喧嘩も、苦しかった生活も、今ではみんな懐かしい思い出です。
なんて幸せな一生だったろう。

「これはね、いつか渡そうと思って渡せなかった物だよ」

そう言って、彼は皺のたくさん入った手に、綺麗な指輪を嵌めてくれました。
蔦飾りの彫られた、とても綺麗な指輪です。
結婚式の時に交わした指輪は安物過ぎて、すぐに錆びて壊れてしまって、
二人とも指輪無しで暮らしていましたから、久し振りの指輪でした。
彼は言いました。

「その健やかなる時も、病める時も、お互いに愛し、慰め、助け、命のある限り誠実でありましたか?」

首を縦に振ることすらままならず、まばたきで答えました。
天国でまた逢いましょうね。
そう思いながら、婦人は息を引き取りました。
「短い一生だったけど、本当に幸せだったよ」
そんな彼の言葉を聞きながら。



眼を開くとそこは、白い場所でした。
薄汚れて白い天井。

おかしいわ。
天国ってもっと綺麗じゃないの?

何だか体が重く、思ったように動きません。
ぬっと、目の前に顔が現れました。
若い女性の顔です。

「せんせーい!患者さん、目を覚ましましたよー!」
振り返りながら遠慮なく、そう叫びます。
首を動かして周囲を見ると、どうやら病室のようです。
初老の医師が近づいてきて、何やら調べています。

「まだ血圧が低いな。
寒波が来ているのに暖房も点けずに床で寝るなんて、自殺行為ですよ。
あやうく凍死する所だったんです。
郵便配達の人が気付かなかったら、そのまま死んでいましたよ。」

あれ?
私、彼に看取られながら一生を終わったんじゃなかったかしら?
記憶が混乱して、どうしていいのかわかりません。
見れば、サイドテーブルには、修繕された写真立てと彼の写真が飾られています。
それを見て、婦人はようやく気付きました。
ああ、夢だったんだ、と。

あのお人形が、彼の夢を見せてくれたのね。
とても幸せな夢だった。
彼と、一生を添い遂げた。
その記憶が今も鮮明に、現実だったかのように残っているのです。
体は鉛のように重かったけれど、心は少し軽くなっていました。

「脈を見ますよ」

そう言って医師が取り上げた腕から、光る物が見えます。
不思議に思ってよく見ると、自分の左手の薬指に指輪が填っています。
動悸がしてきました。
これは、彼が最期に嵌めてくれた指輪に違いありません。
彫られた蔦飾りが同じ流線の模様を描いています。
彼の写真に目をやると、同じ指輪をした彼が手を振った姿で立っています。

「夢じゃなかった・・・!」

私は彼と過ごすはずだった一生を過ごし、戻ってきて彼のいなくなった別の一生を過ごすのだ。
サンタ人形は、願いを叶えてくれたのね。
大丈夫、もう一度生きていけるわ。
こんな幸せな記憶は、手放せない。
涸れ果てたはずの涙が溢れてきて止まりません。

泣きじゃくる婦人の側で、動悸が早いと慌てる医師がいます。
涙を拭く為にガーゼを差し出す看護師さんがいます。
そして、様子を見に来た郵便配達の青年が、小さなケーキを抱えたまま立ちつくしていました。



MerryChristmas!





↓併せてどうぞ♪

【S】サンタさんにお願い(1)

【S】サンタさんにお願い(2)

【S】サンタさんにお願い(3)

【S】サンタさんにお願い(4)

【S】サンタさんにお願い2010『サンタ人形』

【S】クリスマス チャイルド(1)



クリスマスは、みんなが安らかでありますように。


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