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zoom RSS 【S】サンタさんにお願い2012『restart』

<<   作成日時 : 2012/12/24 18:27   >>

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クリスマス・イブの街は喧噪に満ちており、
イルミネーションで彩られた眩いばかりの街並みは、
年末に向かう忙しさと焦燥を掻き立て、けれどどこか心躍らせる物でした。
そう、去年までは。

夢破れて故郷に戻ってきた男性には、今年の街並みは地味過ぎました。
閑散とした商店街。
閉店した店舗ばかり並ぶその光景には、灯り一つ点ってはいません。
それは、沈んだ彼の心をさらに深く沈めるにはピッタリの光景。
時折燦めく光を放つ店舗からは、適当に飾られたディスプレイの中の、
小さなクリスマスツリーが虚しく光っています。
澱んだ濃灰の空には、星も月も浮かんでおらず、気分は沈むばかり。

どこで間違えてしまったのか。
きっかけは、クリスマス明けの小さな諍いだった気がします。
同僚と、ささいな事で揉めたのです。
それが周囲に広まり、上司の耳へと入った辺りから、
人生の歯車が別方向へと動き始めたようでした。
大きなプロジェクトから外され、他のクライアントからも信用されなくなりました。
気が付けば、社内で居場所がなくなって、
重要な仕事からは遠ざけられ、雑用係と化してしまいました。
それでもしばらく耐えていたのは、その業界が好きだったから。
けれどある日突然、声が出なくなったのです。
医者はストレスが原因だと言いました。
会社へ報告すると、露骨にしかめ面をされて、退職勧告を受ける羽目になりました。

−君は、この業界に向いてないんじゃないか?−

その言葉は、心に楔となって打ち込まれ、そのまま退職するしかありませんでした。
職が無くなり、声も出ない自分に再就職は難しく、
仕方なしに、故郷へと戻りました。
故郷と言っても、生まれて数ヶ月暮らしただけの場所。
祖父母が住んでいただけの場所。
思い出など何一つ無い、そんな場所に戻ってきたのです。
祖父母は既に他界し、両親は遠方に住んでいるため、
空き家となっていた住居を手直しして住み始めました。
本当に何も無い場所。
家の周囲は放置された畑が延々と続き、
たまに雇われ草刈り人夫が畑にやって来るだけで、訪れる人もない場所。

一週間に一度、車で一時間かけて買い出しに行く。
後は家で何をするでもなく、ゴロゴロとしているだけの日々。
そのうち貯金も尽きるだろう。
その先の生活方法など、見当も付かない。
空を見上げて吐き出した息も、灰色に見えるのみ。
自分は何てダメな人間なのだろうか。
どうしたら、この状態を抜け出せるのだろうか。
自問自答を繰り返しても、答えは見つかりません。
彼は、薄暗い街路に立ちつくしていました。

「はい。」

突然声をかけられ、コートの裾を引っ張られ、
見下ろした先にいた子供は、派手な緑の瞳をしています。
その手には小さな箱が抱えられ、真っ直ぐにこちらへと差し出されています。

「早く受け取ってよ。忙しいんだから。」

なにか言いたくても、掛けるべき声は出ないのです。
子供に気圧されて、その箱を思わず受け取りました。

「じゃあね!」

レンガで舗装された滑りやすい道を、しっかりと駆けてその子は行ってしまい、
辺りはまた静かな田舎の商店街に戻っていました。
手渡された箱にはカラフルな包装がしてあり、赤と緑のリボンが掛けられています。
勝手に開けてもいいものか少し迷いつつ、その場で箱を開くと、
そこには小さなサンタクロースの人形とカードが入っていました。


画像


『願いごと一つだけ かなえてあげましょう。

ただし 願えるのはクリスマスが終わるまで』



家にその箱と人形を持って帰りました。
だが、どうやって願うのだろう?
声は出ない。
サンタ人形の前で祈るのだろうか?
古ぼけた感のあるその人形を見つめていると、愛嬌のある顔が滑稽にも思えてきます。
そのうち、真に受けて本気にしている自分が、バカバカしくなってきました。
人形の赤い帽子を指でピンと弾いて、心の中でこう思いました。

(夢も見ずに、ゆっくりと寝たい。それだけでいい。)

「その願い、聞き届けましょう。」

何処からか声がしたような気がしました。
男性はそのまま気絶するように、深い眠りにつきました。

翌朝、目を覚まして外を見れば、一面の銀世界。
暖房を点けたまま寝てしまったので、水滴で曇った窓ガラスを拭いて確認した後、
ドアを開いて外に出ました。
見渡す限りの畑は、昨夜のうちに降り積もった雪で覆われキラキラと輝いて、
太陽が昇り晴れ渡った空には、鳥が優雅に舞っています。

「・・・ああ・・・」

その光景に、思わず声が出ました。
自分の声に驚いた男性は、恐る恐るもう一度声を出します。

「お・・・お・・・」

言葉にしてみます。

「ゆ・・・き・・・」

突っ掛かる感じはありますが、声はきちんと出ています。
悪夢ばかりを見て、ずっとぐっすり眠れていなかったのです。
昨夜は、ずいぶん久しぶりにぐっすりと眠れたのです。
それが良かったのでしょうか。
それともこの澄みきった外の空気が良かったのでしょうか。

頬を熱い雫が伝います。

もう一度。
もう一度やり直す勇気が、少しずつ心に湧いてくるようです。
振り返ると、机の上には空箱が乗っていました。
サンタの人形は、どこにもありません。
昨日買ってきたジンジャーマンクッキーのパッケージに、箱のリボンを結び替えました。

(あの子と、サンタにお礼が言いたかったな)

もう一度、出逢えるのならば。
次はこんなしょぼくれた姿ではなく、立派な姿を見せたい。
彼は、そう思いました。

この街で通い始めた医者は、彼の声が出るようになったことをとても喜んでくれました。
いつも無愛想に診察するだけの医者だとばかり思っていた彼には、予想外の出来事でした。
病院のスタッフも、お祝いにとお菓子をくれました。
こんなにたくさんの甘い物は食べきれないと思いつつ、素直に受け取りました。

声の出るようになった彼の周りに、少しずつ人が集まり始めます。
この小さな街の小さな企画に参加するよう求められます。
元々好きな仕事ですから、積極的に受けていくうち、彼は会社を興すことになりました。
周りには温かいスタッフが揃っています。
スタッフに支えられ、ひとつひとつ丁寧に仕事をこなしていきました。
もちろん、無理なことはしません。
みんなが楽しく仕事出来るようにと、配慮します。

数年後、すっかり立ち直った彼は、クリスマス・イブの夜に走り回る子供達の噂を聞きます。
心のプレゼントを配り歩く、クリスマスの子供達。
そして願いを叶えてくれる、サンタクロースの人形。

もう一度、あの子に出逢えるのなら。
今度は逆に、プレゼントをしてあげる心と懐のゆとりが、
今の彼にはあります。
出逢えないあの子の代わりに、街の子供達にプレゼントを贈る、
小さなプロジェクトを立ち上げました。
僅かばかりのものですが、人々の協力を仰いで、毎年成功しています。
緑の瞳のジンジャーマンクッキーを作って、配るのです。
自宅には、リボンを掛けたままのジンジャーマンパッケージが置いてあります。
あの日の出来事が、夢でないことの証です。

彼はもう、自分をダメな人間だとは思いません。
そんな考えは、前へ進むための気力へと昇華します。
つらい経験をしたからこそ、強く進む力を手に入れたのです。
今年のクリスマスは、皆が幸せでありますように。
そんな祈りに似た想いを抱えて、
今の彼は、力強くレンガ畳みの道を踏みしめるのです。



MerryChristmas!








↓併せてどうぞ♪

【S】サンタさんにお願い(1)

【S】サンタさんにお願い(2)

【S】サンタさんにお願い(3)

【S】サンタさんにお願い(4)

【S】サンタさんにお願い2010『サンタ人形』

【S】サンタさんにお願い2011『クリスマスの涙』


【S】クリスマス チャイルド(1)



クリスマスは、みんなが安らかでありますように。


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